
学長トピックス 2008年8月号
基礎研究の充実をめぐって
近年、基礎科学をめぐって、大変厳しい状況が続いている。特に、大量の就職予備群を生み出した博士問題がある。大学院重点化の中で、旧7帝大を中心に、大学院にシフトし博士課程の定員増と大量の博士号取得者を輩出したが、出口の部分であるポストは、彼らが就職を希望する大学での研究職は、国立大学法人化に伴う国の運営費交付金の削減などで減ってきている。また、COEなど期限を区切ったポストはあっても、これは短期間で研究成果を出すことを求められる。10月に国立大学理系学長会議が愛媛大学で開催されるが、そこでの協議事項として、「博士号取得者のための就職支援について」を提案したが、特に大学院の重点化を推進してきた大学、あるいはそれを政策化した関係機関で真摯に受け止めなくてはならない課題であろう。
こうした中、8月1日付の日本学術会議科学者委員会学術体制分科会(谷口維紹委員長)の提言「我が国の未来を創る基礎研究の支援充実を目指して」を読む機会があった。この提言は、「負のスパイラルにより、今や大学・研究機関等の体力は急激に弱まり」「学生の基礎研究に対する意識変化や関心度の低下は著しく」「基礎研究の推進に向けての抜本的対策を講ずることは緊急課題」との認識の下で出された。
そこでは5つの提言を述べているので以下に紹介する。
① 基礎研究の充実を図るべく適切な資源配分を検討するべきである。
② 基盤的経費による大学・研究機関の支援を強化すべきである。
③ 研究を支えるインフラストラクチャーの整備を充実させるべきである。
④ 創造性を育てる教育体制の整備を充実させるべきである。
⑤ 若手研究者が夢を持って研究できる環境を整備すべきである。
これらの提言に全面的賛成で強く支持し、国の政策がこの方向に方向転換することを強く希望する。同時に、これが、大学院重点化の如く、一部の大学への資金シフトを助長することがないよう、あまねくすそ野を広げ、全体の活力の向上につながることを強く願っている。
幡豆郡吉良町現職研修教育講習会夏季セミナーで講演しました
「人生劇場」を生んだ尾崎士郎の出生地、また吉良上野介や吉良の仁吉で有名な吉良町は、愛知県の三河部にあり、三河湾に面した風光明媚な土地です。幡豆郡は吉良町の西にウナギの養殖で有名な一色町、東に三ヶ根山スカイラインを頂く幡豆町の3町からなっています。愛教大から、国道23号経由で、1時間の距離にあります。吉良町の安井克彦教育長は、多忙な中、本学大学院学校教育専攻に入学され、めでたくこの3月に修了された生涯一学修を身をもって実践されている大変アクティブな先生です。会場の公民館に着くと、アロハシャツ(吉良町ワイキキビーチにちなんで)を着た職員の方々が迎えてくれました。このセミナーは、現職研修教育講習会「夏期セミナー」の一部として行われたもので、「高等教育の現状と科学教育」というタイトルで行いました。大変暑い中で、100人余の先生方を前に、かなり緊張した中で行いました。いま大学がどういう状況にあるか、その中で、科学教育はどうなっているのか、愛教大の目指すものは、などについてお話ししました。
【写真は、吉良町公民館での筆者の講演風景】 | ![]() |
「ICT活用教育推進リーダーシップ/FDセミナー2008」の第一日目「高等教育のための情報コミュニケーション技術の戦略的価値」(8月26日@東京国際交流館)に参加しました
表記のセミナーが東京国際交流館のプラザ平成国際交流会議場で、8月26,27日の二日間、メディア教育開発センター(NIME)の主催、EDUCAUSEの共催で開催され、第一日目だけ参加してきました。二日目は「FDのベスト・プラクティスとeラーニングの成功」というテーマで開催され、佐藤教育担当理事が参加されました。清水NIME理事長の挨拶の後、文科省官房審議官(高等教育局担当)戸谷一夫氏の挨拶がありました。
EDUCAUSE(アメリカのICT活用教育組織で2,200以上の高等教育機関と250以上の教育関連企業が会員)で重要な役割を担っている、アメリカの大学からM.Brownダートマス大学学術情報センター長、J.L.Hartmanセントラルフロリダ大学副学長(情報技術電子資源担当)、D.Lassnerハワイ大学副学長の3人の方々によるセミナーがあった。
セッション1では、ITの効果的な適用によってどのような戦略的成果をもたらすか、セッション2では「組織としての成功を導く鍵」、セッション3では、「高等教育における協働戦略」の三つをテーマに、PPを用いたプレゼンや質疑応答が150分あった。その後、日本側を交えたパネルディスカッションが行われた。これらのセミナーを聞いて、まず感じたのは、日本、とりわけ本学はITに関して相当遅れているのではないか、という思いであった。まず、自分の無知をさらけ出すようで、恐縮だが、EDUCAUSEという組織については、まるで知らなかった。この年次大会には1万人以上が全米から参加し、活発な情報交換がなされるとのことで、質疑の中で、大阪大学も昨年EDUCAUSEに加入したとの話があった。アメリカではCIOの役割が大学全体で認識され、このCIOを中心に、ICT戦略が検討され実行されていること、またITに関する予算は、アメリカでは4~8%で、本学の1.5%程度と相当の開きがある。
ICTの中で、図書館の役割も相当変化しているとの話もあった。昨年度まで図書館長も兼務していたが、図書館も紙媒体から電子媒体まで広くハイブリッドライブラリーが急速に進むので、そのための対応をきちんとしておくべきという話を口をすっぱくして話したことを思い出し、その方向性を再確認した。また話の中で、「Cloud Computing」というタームが何度か出てきて、戸惑った。メールはGoogle Mailへの移行が急速に進んでいるようである。
本学のIT戦略を次期中期目標・計画においてどのように立てて行くか、またICT化のなかで本学として打ち出せる特徴は何か、などいろいろと考えさせられるセミナーであった。
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国大協トップセミナーに参加しました
表記のセミナーが横浜山下公園近くのホテルニューグランドで28,29日の両日開催されました。このセミナーは、国立大学学長を対象に、法人化後の2005年度から、大学の夏期休暇のこの時期に開催されており、今年で4回目とのこと。参加は、86大学中、60大学でした。大規模総合大学での欠席が目立ちました。
セミナーは、午後1時過ぎから始まり、最初の講師は、日本IBM最高顧問・経済同友会終身幹事の北城恪太郎氏、タイトルは「国立大学への期待―教育の府としての大学改革を」で、豊富な資料を基に講演された。日本の直面する問題として①人口減少社会の到来(出生率1.34では2100年に人口5千万人弱)、②巨額な長期債務残高(800兆円弱)、③低い労働生産性(米国の70%程度)、④成長を支える教育(読解力15位)、⑤環境への配慮を指摘し、これを解決するには、イノベーションの推進による価値の創造しかないと強調、これからの社会で求められる人物像として、豊かな教養に根ざした基礎学力、高い倫理観や社会規範性、課題発見型行動力があるとの指摘であった。また求められる大学改革として、学長のリーダーシップや教員人事制度の改革、学長の選任方式の変更、学部長等の学長による指名、教授会を決定権を持つ機関としないなどの財界側の意見が色濃く反映された内容であった。参加した学長には、これに賛同する声もあれば、批判的な声もあるなどさまざまであった。
続いて、全国知事会会長で福岡県知事の麻生渡氏の「国立大学への期待」の話であった。まず、麻生氏は、昨年7月に出した全国知事会の「地域に貢献する国立大学法人の運営費交付金について」を説明され、知事会としてのメッセージは、今も変わっていないことを強調された。その後、福岡県が取り組んでいる、SSB(Semiconductor Sea Belt、九州-ソウル-上海-台湾を繋ぐライン)の一環として、地元の九大や九工大だけでなく九州を越えて34大学や25の企業から講師陣を形成し、半導体最先端の講義を生産現場に行っていること、また、自動車150万生産を目標に掲げた九州全体の取り組みや、九州で7千人いる留学生をいかに日本に引き止めるかについてのさまざまな取り組みを説明された。
終了後の17時半から19時半までは、情報交換会なる懇親会が開催され、近隣の東海北陸地区の学長の方々や、教員養成系単科大学の方々との情報交換を行った。2日目に予定されていた、日本学術会議会長の金澤一郎氏の講演「これからの国立大学への期待」は中止となり、討論のみが10時から11時半まで、埼玉大と大教大の学長の司会で行われた(この会は、国大協セミナーを含め事業委員会の企画立案で行われており、お二人ともそのメンバーである)。金澤氏の講演は中止されたが、レジメが用意されていて、目次は、①大学の使命、②世界の大学の歴史、③日本の大学の歴史、④国立大学が近年経験した四大試練、⑤国立大学の現状、⑥国立大学に望むものです。それによれば納得できる提言も多く、大いに賛同できるものであった。そのいくつかを紹介すれば、高等教育を文科省から切り離し「科学・技術・学術省」とすべし、国立大学は機能別に数群(総合、地域中核、教育などの各大学に)にわけ、その群の中での議論を進めるべき、機能別の大学群はその役割・特徴・個性を明確化すべし、大学院重点化大学のうちくつかは学部を廃止すべし、国立大授業料は無償にすべし、等々である。また、氏は学術研究の成果は直ちに人間社会に役立つとは限らないということを忘れてはならないし、大学が産業界に擦り寄る必要はないなどと、警鐘を鳴らしている。今後のこうした方向での学術会議の動きを支援していくことも大事であろう。
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