
平成20年度入学式を挙行しました。
平成20年4月3日(木)本学講堂
学長式辞
ただいま入学を許可いたしました教育学部学生937人、特別支援教育特別専攻科及び1年課程学生32人、そして大学院教育学研究科修士課程108人、大学院教育実践研究科23人、総計1100人の皆さん、あらためて入学おめでとうございます。また、式にご参加いただきましたご家族のみなさんにも、心からお祝い申し上げます。
まさに、季節は春爛漫、幸い今日の入学式は晴天に恵まれ、バス停から続く桜並木も、沢山のクラブの勧誘の先輩たちとともに、皆様の愛知教育大学への入学を歓迎しています。国立大学法人愛知教育大学を代表し、皆様の入学を歓迎し、心からおめでとうの言葉をおくります。
私事で恐縮ですが、私も、皆様と同様、この4月1日から愛知教育大学学長の任に就いた新人です。最初に自己紹介をしましょう。名前を松田正久といいます。皆様が本学で学び、卒業される予定の4年間とその上の修士課程2年間を加えた6年間が、私の学長としての任期です。私の専門は、物理学で、その中でも素粒子論という分野を専攻しています。宇宙や物質の成り立ちとそれを支配する法則を究める学問です。物質間に働く力には、強さの弱い順に、重力、これは太陽系を構成し、ものが地上に落下するときに作用している力です。その次弱い力ですが、これは原子核のβ崩壊などに現れる力、次に電磁気力ですが、これは原子や分子、ひいてはさまざまな物質を構成するのに必要な力、最後が強い力で、これは原子の構成要素である原子核をつくったり、原子核の要素である陽子や中性子を構成している力です。誕生して138億年になる宇宙の創世時には、こうしたさまざまな力が、ただひとつの力であったのではないかと予想されています。現在の地球には、さまざまな民族が生活していますが、500万年前には、アフリカで誕生した人類の祖先が、進化を遂げながら、世界中に広がっていったのに似ています。こうした、力の起源や物質の構成要素のあり方を研究してきました。しかし、国立大学が国立大学法人となった2004年度以降は、大学の理事・副学長として、学長をサポートして、大学の管理運営に携わってきましたので、教育研究からは遠ざかっています。
皆さんが、愛知教育大学に入学を決めた動機は様々であろうと思います。学部学生の皆さんにあっては、教育改革の論議や教員の資質がマスコミ等で大きく取り上げられる中にあって、未来を担う子どもたちに夢を与えることのできる教師という職業を自分の夢の実現として教員養成課程に入学された方、リベラル・アーツに魅力を感じ、人文社会から自然科学までそれぞれの学問分野を深めるために入学された方、などなど。どういう動機であるにせよ、大学は、自らの意思で、自ら目的を定め、その実現に向けて努力していくための学びの場を提供する場所です。
私のことを言えば、小学生のころ、地球が自転し、その速さは日本では秒速約400mと習ったことがありました。そのとき、私は教室で飛び上がって、何で壁にぶつからないだろうと、何度も何度も飛び上がってみたものです。科学の歴史を紐解くと、ガリレオ・ガリレイが「慣性の法則」として、これを理解するのが、西暦1500年のころのことです。私自身もこれを理解するまでに、数年間を要しました。こうした疑問が、物理を学びたいという理由になっていたのかもわかりません。皆さんも、一人一人、自分の歩むであろう、あるいは歩んでみたい、朝もやに浮かぶボヤ-とした輪郭の道を描いて、本学に入学されたことと思います。
さて、本学は、教育学部1学部からなる単科大学です。国立の教育系単科大学は11大学ありますが、本学は規模では4番目に大きい規模の大学です。では、教育学部とはどういう学部なのでしょうか?入試では、教員養成課程では、国語や社会科、算数・数学、理科、体育や美術・音楽など教科に応じた様々な選修・専攻別に入学試験を行いました。現代学芸課程では、国際文化、日本語教育、臨床心理福祉、造形もあり情報、自然科学もあるという具合で、これらの専攻だけみれば、文学部や理学部、芸術学部のミニ版の印象を持たれたのかもしれません。確かに、それぞれの専攻される学問分野にしたがったカリキュラムを用意し、皆さんが学びたい分野の教員が、皆さんの知的要求に応えてくれることと思います。同時に、特に教員養成課程においては、人間とは何か、教えるとは何か、子どもとは何か、すなわち、子どもと向き合い、「教育」についての共通的な内容について学んでいきます。このことを、本学の目標は、「多様な教員養成プログラムを通して,平和な未来を築く子どもたちの教育を担う優れた教員の養成を目指す」述べています。その前提として、「学部教育においては教養教育を重視する」と謳っています。
そこで、愛知教育大学教育学部に入学された皆さんが、大学において獲得すべき「教養」とは何かについて、少し話したいと思います。おそらく皆さんは、小・中・高を通じて、周りの意見に従うことが、なにかと「メリット」が多いことを学んできていると思いますが、大学生となった今、一度「だが、しかし」と「考えて」みてください。「いかに生きるべきか」について誠実に考えてみてください。その答えを出すためには、これまで学んできた教育の中で獲得したものではいかに不足しているかに気づくはずです。ルイ・アラゴンは、詩集「フランスの起床ラッパ」に収められている「ストラスブール大学の歌」という詩の中で、「教えるとは希望を語ること学ぶとは誠実を胸にきざむこと」と詩っています。元一橋大学長であった阿部謹也氏、この方は中世ドイツ史が専門です。「ハーメルンの笛吹き男」など優れた論考がありますが、残念ながら一昨年お亡くなりになっています。阿部氏は「いかに生きるかと自ら問うようになったということが、教養というものの出発点にある」と、その著書「大学論」の中で述べられています。そして「教養というのは社会の中での自分の位置を知ろうとする努力、あるいは知っている状態、あるいは知ろうとする努力の総体を言う」と捉えています。愛知教育大学は「教員養成を主軸に教養を重視する大学である」ことを宣言しています。それは、とりもなおさず、皆さんの「知ろうとする努力」を、学問の場を通じて提供できる大学であるかどうかにかかっていると思うのです。「いかに生きるか」を考えることは決して無駄ではありません。そのためには、先人の作り上げてきた「文化」に学ぶことも大事です。作家の井上ひさし氏は、「文化」とは、毎日の習慣を束ねたもので、何を大事だと思って毎日を過ごすか、だと言っています。大学では、皆さんは、自らの頭で考え、毎日を過ごすことが可能となる「自由」な立場です。授業を受けるということは、それだけでは、主体的な行動ではありません。しかし、その場で提供される授業は、高校までの授業とは大きく違っているはずです。「だが、しかし」「何故」と発することが可能な「学問」をする場として、大学は授業を提供します。そこに、主体的な取組の場が成立すると私は考えます。どうか、入学後は、自ら生き方を考え、社会の中での自分の位置を獲得していくための努力を主体的に行って見てください。新しい出会い、これは本であったり、友達であったり、先輩であったり、教職員であったりするでしょう。そうしたことを大事にしながら、それぞれの「教養」「文化」を創造してくれることを期待しています。愛知教育大学は、そのための援助を惜しみません。
愛知教育大学大学院及び特別専攻科・1年課程に進入学された皆さんは、これから専門を実践的理論的に深めていかれることでしょう。お一人お一人、大学院への進入学の動機は異なると思いますが、共通していることは、「学問への熱き思い」ではないでしょうか。ぜひ、その思いを貫いてください。
今年度から本学は、新しく、専門職大学院としての所謂、教職大学院、すなわち教職実践の基礎及び応用の二領域からなる教育実践研究科教職実践専攻を設置し、第1期の入学者23人をお迎えしました。これは、県下の小中学校のうち連携協力37校との強い協力の下に、実践力を養い、教育の現代的課題に応えていくための授業づくり・学級づくり・学校づくりの三つを柱にカリキュラムを構成しています。また既設の教育学研究科においては、広い視野に立って精深な学識を修め,専門分野並びに教育実践の場における理論と応用の研究能力を高め,教育研究を推進し得る能力を養うことを目的としています。大学院に入学された皆さんが、それぞれの研究科の目的に沿って、充実した大学院生活を送られることを期待しています。
次に、私は、現代の諸問題と大学の機能についてふれたいと思います。一つは、イラク戦争やパレスチナ紛争あるいは核兵器開発に象徴される戦争の問題であり、もう一つは地球温暖化に代表される地球的規模での環境問題です。後者の環境問題は、エネルギーの南北間格差の問題でもあります。EUは、2020年までに温室効果ガスの30%削減を提示し、再生可能エネルギーへの転換を推進しています。すなわち、地下資源文明から地上資源文明への変革です。一方、日本をみれば、いまだ、こうしたエネルギー政策への抜本的転換を打ち出せないでいます。また、労働力全体に占める非正規雇用の割合は、2007年平均で3分の1を超えるまでに拡大し、OECD調査によれば日本は相対的貧困率世界第1位とのことです。このように格差と貧困が広がり、大きな社会問題となっています。様々な分野でグローバル化とボーダーレス化が進む中にあって、このように、地球的世界的規模でも国内的にも、様々な矛盾が現出しています。
教育研究をその存在基盤とする大学は、イデオロギーを超えて、社会に警鐘を鳴らし、社会の進むべき道を指し示す道標の役目を担っているのではないでしょうか。人類の歴史や文化に学び、現在の矛盾を解決する手段や方法など、「知の創造」を行い、その成果を、未来を担うあなた方に、継承していくこと、すなわち「知の継承」が、大学人に求められている機能です。この意味で、愛知教育大学は、一人一人の教員の「知」を、大学での講義・演習・実験・ゼミナールなどあらゆる場面を通じて継承してゆくことを宣言します。
さて、本学には、2003年に定めた「愛知教育大学憲章」があります。ホームページにも掲載してありますので、是非一度目を通してみてください。そこでは、「愛知教育大学の運営のあり方」として、「1.大学の民主的運営」では、「愛知教育大学は,全ての構成員が,それぞれの立場において,本学の目標を達成するため,大学の諸活動へ参画することを保障し,民主的運営を実現する。構成員は,大学の自治を発展させるための活動を相互に尊重するとともに全学的調和をめざす。」と宣言しています。また、「2.学生参画の保障」では、「愛知教育大学は,学生の学修活動を支援し,教育改善への学生参画を保障する。」と宣言しています。大学の教育は、教員が一方的に与えるものではなく、そこでは学部学生や大学院生の「考え」も取り入れながら、教員と学生の双方で作り上げていくものだという考えがあります。日本では馴染みがないのですが、特にヨーロッパでは、長い歴史の上に、大学運営への学生参画が制度として確立しています。本学でも、憲章の精神に沿って、「全学会議」を設け、「教務企画委員会」や「学生支援員会」への学生参加を保障しています。こういう場を通じて、自らの考えに基づく「教育」の在り方について、学生諸君と教員との活発な意見交換ができることを期待しています。また、「意見箱」を設け、学生の皆さんが、自らを明らかにし、責任を持っていただくことを前提に、自由に意見を述べ、その意見に対して大学として機敏に応えていく仕組みを整備しています。
最後になりますが、学部の新入生の方は4年間もしくは6年間、修士課程に入学の方は2年間、愛知教育大学で、「学問」を究める機会を得られました。皆さんの「学び」の軌跡を、この期間を通じて、しっかりと刻み、描いていただけることを期待しています。そして、何十年かたった後に、愛教大で学んでよかったと思えるような学生生活を送っていただきたいと願っています。私自身は、特技というものが何もないのですが、皆さんには、「学ぶ」こと以外に、何かひとつ、これはというものを身につけてほしいと思います。とにかくスポーツでも文化活動でもなんでもよい、これはというものを創り上げていただきたいと思います。熱中・没頭して、一つのものを成就・達成・完成することが、自分への自信を与えてくれるでしょう。
最後にお詫びを言わねばなりません。本学は、環境重視型大学の実現を謳っています。これは、何よりも本学が緑に囲まれた素晴らしい環境に位置しているからです。しかし、このことは、名古屋市内の大学に比べ、通学が不便ということでもあります。昨年度から、知立駅と日進駅からのバスに加え、刈谷駅からのバス路線もでき、若干の改善は進んでいますが、十分ではありません。大学としては、高額なバス料金の改善など、関係機関への要請を引き続き行っていきます。同時に、この環境を活かしたアカデミックな雰囲気あるキャンパスづくり、持続可能な社会の実現に向けてのさまざまな試みをなしていくことが、本学の目標です。CO2の負荷を可能な限り削減した環境にやさしいキャンパスづくりのため、新入生の方には、1年間原則として車通学はご遠慮していただくこととしていますので、ご理解ご協力をお願いします。
様々な課題の解決は、あなた方の世代に託されています。本学教育学部及び大学院等で勉学する機会を得られた新入生のみなさん、この大学においてみなさんのもつエネルギーを発揮して、大学生活を楽しみ、本学の魅力ある大学づくりに参画されることを大いに期待し、入学式にあたっての式辞といたします。
平成20年4月3日
国立大学法人 愛知教育大学長
松田 正久

