HATOプロジェクト大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築
-教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト-

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教員養成系大学における障害学生支援ブックレット

第Ⅱ章 第5節 ボランティア活動

1.大学生とボランティア

近年の大学生ボランティアに関しては、震災に関わる積極的な取り組みと、これらの活動を大学での単位に結びつける文部科学省の方向性が話題になっているところです。また、平成28年2月には、文部科学省と厚生労働省は「学習支援における学生ボランティアの参加促進」を目的とする依頼文書を各大学や教育委員会に対して出しています(文部科学省・厚生労働省, 2016)。この学習支援ボランティアは、子どもの貧困対策への総合的取り組みの一環として進められているものですが、これらのことからも、大学生が学業と平行してさまざまなボランティアに参加している様子がうかがえます。ちなみに愛知教育大学が大学ホームページ上で紹介しているボランティア活動は、学校ボランティア・教育復興支援学生ボランティア・訪問科学実験・土曜親子日本語教室ボランティア・日本語教室ボランティア・国際交流学生ボランティアであり、やはり学習支援や震災復興援助のボランティアが中心となっています。

2.教員養成系大学におけるボランティア活動

教員養成系大学のボランティアの特徴としては、学生が将来教員になることから、教員としての資質を高めることにつながるボランティア活動が選択・奨励される傾向があります。とくに学校ボランティア(「スクールボランティア」「学校インターンシップ」などの呼称もあり)は、地域の学校の教育機能を補完する意味、学生の実践的教育技術・思考・態度を養成する意味、単位や採用試験での加点要素とつながるキャリアプランニングの意味などがあり、さまざまな取り組みが実施されています。
愛知教育大学においても本年度(平成28年度)より「学校サポート実習」という名称で、学生の学校でのボランティア活動を単位化する試みが始まりました。ここでは学生が独自に対象校を探す自発性に基づく活動や、大学と学校が提携して進める組織的な活動が見られます。いずれも単位として認定することを考え、オリエンテーションと振り返りを含む、およそ15単位時間の活動となっています。

3.特別支援教育とボランティア

特別支援教育の領域は、従来からボランティア活動と密接に連携していました。特別支援教育を志す学生のなかには、高校生の時代に障害のある人と関わるボランティアを経験した者が少なくありません。また当事者家族として、介護活動を経験していたり、特別支援学校での教育活動に触れていたりする学生もいます。
愛知教育大学特別支援学校教員養成課程では正規の教員養成カリキュラム以外にさまざまなボランティア活動の機会を用意しています。プレイセラピー、親の会主催による動作法訓練会、学生主催の難聴児サマーキャンプ、視覚障害児の科学教育支援キャンプ、外部団体と共催の発達障害児キャンプ、聾学校と連携した学校支援ボランティアなどさまざまな活動があります。学生はこれらの活動をとおして、障害のある子どもたちとの遊びや学習体験を積み重ねています。

4.障害のある学生とボランティア

障害のある学生のボランティア活動も多様です。当該学生のなかには震災関連のボランティアや環境整備などのボランティアに参加する者もいます。また子どもの学習支援に参加する者もいます。教員養成系大学の場合は、障害のない子どもたちの教育や自分自身の障害と同様の障害のある子どもたちの教育のみではなく、自分自身の障害とは異なる障害のある子どもたちの教育に当たることも考えられます。ちなみに愛知教育大学特別支援学校教員養成課程に在籍する学生は、基本的には5障害(視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱)の免許を取得して卒業します。障害のある学生も自分の障害とは異なる障害について学ぶ機会が豊富になります。結果的に障害のある学生は、教員としての将来を考え、自分とは異なる障害のある子どもとの関係を、ボランティアをとおして作り上げていくことにチャレンジすることも考えます。しかし、これらのボランティアをすすめるうえでは、大学、教員、ボランテ ィアの受け入れ機関等の適切な支援が必要になることがあります。以下に具体例を挙げてみます。

(1)肢体不自由の学生のプレイセラピー

車いすを利用する学生が、プレイセラピーのセラピストとしての活動を希望したことがありました。この活動をコーディネートしてきた教員は当該学生の希望やこれまでの経験、プレイセラピーへの想いなどを確認したうえで、対象となるクライエントとのマッチングを考えました。クライエントの主訴を勘案し、子ども本人と保護者の了解を得て、車いすの学生はセラピストとして卒業までボランティアを継続しました。

(2)聴覚障害のある学生の動作法訓練

愛知教育大学ではこれまで多くの聴覚障害のある学生が動作法訓練会でのボランティアを経験しています。各スーパーバイザーのもと、数人の学生がそれぞれ特定の子どもと関わりを持って活動を進めるのですが、スーパーバイザーの指示や子どもの発言を理解するためには筆記通訳や手話通訳による情報保障が必要になってきます。また子どもへの話しかけも通訳が必要な場合があります。動作法では子どもの体幹、四肢、関節等に必要に応じて手を添えて適切な動きや姿勢を引き出す支援を行います。子どもの姿勢の取り方や支援のタイミングを考えると、彼らの位置関係を考慮した手話通訳の支援が効果的になります。そのため、動作法の流れや意図を理解した手話通訳可能な教員や特別支援学校教員養成課程の学生が情報保障に当たりました。

5.まとめ

障害のある学生がボランティアを行ううえで絶対的な制限や配慮というものはありません。他の障害のない学生と同様にさまざまなボランティアを経験することが奨励されます。しかしながら、教員として障害のある学生のボランティア活動に関わる場合には次のような配慮は必要と思われます。

(1)障害のある学生の意向を確かめること

始めにその障害のある学生がどのようなボランティアを望んでいるのか、またなぜそのボランティアを選択したかについて話し合ってみることです。さらには、ボランティア活動にたいしてどのような不安を感じているかもたずねてみるのもたいせつです。私の担当した聴覚障害のある学生のなかに「自分と違う障害のある子どもと関わってみたかった。」という学生がいました。この時点では、学生は自分がどのように関わるかを十分考えていませんでした。そして最も不安に思っていたのがコミュニケーションが相手との間で成立するかどうかでした。このような場合には、自分が真に望んでいることを考えさせると同時に、そこでの関わりで起こるだろう出来事についてもあらかじめ話し合っておくことが必要です。そのうえで、自分に合ったボランティアやサポート体制を選択することがたいせつです。

(2)ボランティアの対象者の意向を確認すること

ボランティアの対象者のなかには障害のある学生との関わりになれていない者もいます。よりよい関係を築くためには、対象者にもあらかじめ障害のある学生との関わり方について説明をし、了解を得ておくことがたいせつだと考えます。

(3)特別な配慮について検討すること

障害のある学生がボランティア活動を円滑に進めるために、援助者や特別な配慮が必要になることがあります。しかしながら大学での正規のカリキュラムではないため、ここでの配慮は不安定なものになります。障害のある学生自身の主体性をそこなわないようにしながら、可能な援助のあり方を検討することもたいせつです。
ボランティア活動は相手を援助するとともに、学生自身が学んでいく二つのプロセスが重なった活動です。そのなかで学生は成長とともに悩みを体験します。教員は常に相談に乗れるように準備しておくことも必要と考えます。

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