HATOプロジェクト大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築
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教員養成系大学における障害学生支援ブックレット

第Ⅲ章 コラム5(肢体不自由の学生)

名前 田中 宏史(31歳) 車いす使用
学歴 愛知教育大学 障害児教育教員養成課程卒業
職歴 豊橋市役所・事務職(職暦8年)

1.はじめに

私は、脳性麻痺による体幹機能障害で、日常生活では車いすを使用しています。立位や歩行はむずかしいですが、坐位保持や手の機能に制限はないため、大学の講義などは通常どおり受講できました。
実家と大学が遠く、下宿生活でした。玄関の段差に板を置き、キッチンやトイレにいすを置くなど生活しやすいように工夫しました。大学構内は坂が多く、移動は電動車いすを使用しました。雨の日は右手に傘を持ち、左手で車いすを操作して通学しましたが、時々びしょぬれになってしまうこともありました。
現在は、豊橋市役所の障害福祉課の正規職員として、障害者手帳・福祉医療事務など障害のある方々への支援を行っています。

2.在学時、あってよかった支援

大学構内は、ほとんどの棟にスロープやエレベーターなどがあり、移動や講義の受講において、とくに困難さを感じたことはありませんでした。指導教員に申し出ることにより、必要に応じて講義教室の変更などの配慮がありました。
スポーツの講義では、理解のある講義担当教員とともに、私の障害の状態に応じた内容を練り、実践しました。ゴルフ・陸上・水泳など、障害があっても楽しめるものがあると実感できました。
教育実習においては、実家から通いたいと大学の教務課に申し出て、豊橋市内の小学校や特別支援学校で行いました。机間指導をしやすくするため教室内の座席をコの字型にする、黒板に手が届かないためホワイトボードを使用するなど、事前に実習校と配慮事項を検討しました。

3.在学時、あったらよかった支援

在学時、同じ課程に聴覚障害のある同級生の友人がいました。彼には身近に聴覚障害のある先輩や後輩が大勢いました。車いすの仲間がいなかった私にとっては、相談し合える状況にあった彼をうらやましく思いました。
障害学生が同じ障害のある当事者とつながれる機会は限られています。入学希望者・在学生・卒業生を含めた相談体制の仕組みが大学にあれば、不安の解消、将来のモデル作りなどに寄与すると考えます。
また、キャリア支援について、教員養成系大学では、教員採用試験に関する情報は多くありますが、それ以外の情報(民間企業・公務員など)が少ないです。在学中のアルバイトも含め、幅広い分野の就職情報が提供されることで、障害のある学生の職業選択の幅が広がればと思います。

4.教師を目指す後輩と、その支援者へのメッセージ

大学4年生の夏、教員採用試験を受験しましたが、不合格でした。ゼミの指導教員が教育委員会と掛け合ってくれましたが、「車いすで働ける学校がない」という理由で、講師の採用もありませんでした。教員になることしか考えてこなかった私は絶望しました。結局一年間就職浪人となりました。
「障害のある人の支援がしたい」との思いから教員を目指しましたが、就職につながらないのであれば、別の道を考えなければなりません。そこで、私は「みんながやりたいことを実現できる社会作りに貢献したい」という希望を持ち、私は市役所職員となりました。支援の形は違いますが、障害のある方と関われていることにとてもやりがいを感じています。
障害のある人の就職事情は、今もなお厳しいと感じています。夢を追うのはもちろんのこと、別の道も考慮に入れて有意義な職業選択ができることを願っています。

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