HATOプロジェクト大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築
-教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト-

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趣旨・目的

HATO 10年間の歩み

概要

「HATO」というイニシャルワードは、北海道教育大学(H)・愛知教育大学(A)・東京学芸大学(T)・大阪教育大学(O)の4大学の連携を世に問うものであった。

平成24年度に「大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築―教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト―」が、文部科学省国立大学改革強化推進補助金「国立大学大学間連携等支援事業(総合支援型)」に採択されスタートした。通称HATOプロジェクトの始まりである。国立の大規模教員養成系単科大学の集まりであるHATOは、日本の教員養成が抱える共通課題を連携・協働して解決することを目指し、教員養成の質保証と高度化を支援するシステムの構築を基本理念とし事業を進めることになった。そのために事業推進にあたって、4大学で全学的な組織として「教員養成開発連携機構」を設置し、各大学に「教員養成開発連携センター」を配置するという体制を整備した。

おおよそ、プロジェクトのパイロット的取り組みの時期に当たる平成24年から平成25年の間を第1期とすると、質保証と高度化の支援システムの構築が探求された平成26年から平成29年までが第2期、そしてその成果を日本全体の教員養成の現場に広げるとともに、補助金終了後も各大学が自律的な取り組みとして協働事業が進められた平成30年から令和3年までが第3期として、この10年間の道のりを整理することができると思われる。

第1期においては、教学改善をエビデンスベースで進めようとする「IR部門」、大学教職員と附属学校教員の専門性開発、能力向上等を総合的に支援しようとする「研修・交流支援部門」、個別な教育課題に取り組む「先導的実践プログラム部門」の3部門と、その下に16プロジェクトを設置する体制を整えた。さらに、4大学での連携・協働事業の促進、単位互換制度の検討と新設、継続的なコミュニケーションがシステム化されるなど、連携体制が構築された時期であるとともに、初期の成果が多く積み重ねられまた公表されていた時期でもあった。

続く第2期は大きく取り組みが開花した時期でもあり、内容面では、4つの大学の強みをまず持ち寄り、強みを持つ大学に他の3大学が協働して進める「先導的実践プログラム部門」の元にあるプロジェクトと、教員養成教育が共通して抱える諸課題に対して4大学で連携・協働して取り組む「IR部門」「研修・交流支援部門」が、4大学の外に広がる他の教員養成系大学、学部にもネットワークを広げ、その成果が共有されていった。また、シンポジウムやホームページを通して、あるいはアウトリーチ型のワークショップを通して、各地の教育委員会や学校現場にもつながりを強めた時期でもあった。

そして、補助金終了後の第3期では、これまでの成果を「A教員養成の評価システムの構築」「B教員養成における『ならでは』の大学教職員の研修開発」「C教育政策への迅速な対応」「D教育実習に対する課題への対応」「E教員養成・研修における現代的課題への対応」の5つの取り組みに再整理し、オンラインネットワークにおけるホームページその他の情報発信・交流機能を強化してこれまでの成果が常時、利活用できる体制を整えるとともに、4大学においても組織改革やカリキュラム改革、単位互換などを実施し、プロジェクトの成果を自身の教員養成改革に落とし込んでいった時期ともなっている。

取組の成果は、調査研究や実践モデルなどの「研究教育情報の提供」、教材としてのテキストや動画さらには出前講義などの「研究教育資源の提供」、参加型のネットワークや構築された課題解決のための仕組みなどの「研究教育システムの提供」の3つのタイプにより、4大学が「連携」して、今後、教員養成を行う大学や学部、さらには教育現場から問い合わせに応じたり、4大学が連携しまたそれぞれに、取組を進めたり自大学を含め利活用が広がるように継続的に普及・発展させていく予定である。特に、教育実習に関するCBTの開発普及、へき地教育・小規模校教育に関するプロジェクトの成果が広く日本教育大学協会の部門として位置づけられたこと、日本教育支援協働学会がプロジェクトの成果から新たに立ち上げられたこと、研修交流の仕組みとPDモデル講座がその考え方とともに整備され利用されていること、教育実習指導に関する初めての研修動画配信システムが構築され利活用されていること、外国人児童・生徒への支援・指導のあり方が開発され広げられていること、安全教育のモデルが開発され養成と研修の現場で幅広く利活用されていることなど、一例をあげてもプロジェクトの成果は確実に、質保証と高度化に資するものとして根付き始めている。今後も全国の国公私立の教員養成大学・学部等と連携協力を広げつつ取組を深化させ、養成・研修機能の質保証及び高度化を持続的に進めていく機会を探っていきたいと思う。

最後に、この10年間、HATO プロジェクトにいろいろな立場で関わっていただき、またご支援・ご協力いただきましたすべての皆様に、改めて厚く御礼申し上げたい。本プロジェクトの成果を今後も多くの教員養成機関でご活用いただき、全国の教員養成系大学・学部のネットワーク化が図られ、教員養成の質保証と高度化がさらに進むことを関係者一同願うところである。

大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築

学長挨拶

北海道教育大学(H)
蛇穴 治夫

HATOプロジェクトで開始した「教育実習前CBT開発」や「小学校英語教育の指導力向上プロジェクト」、「高度な教職専門性を持った新しい人材育成(プロフェッショナル型博士課程(Ed.D.)構想)」、「へき地・小規模校教育に関する指導プロジェクト」などの取組は現在も発展させながら継続しています。特に「教育実習前CBT」については、全国47大学で活用され、また、札幌市教育委員会の新任教員研修でも役立てられました。さらに、「小学校英語」関連では「CollaVOD(オンライン協働研究・学修プラットフォーム)」を全国に無償公開し、学校現場に教材や指導方法の提供を行っているほか、「へき地・小規模校教育」関連では日本教育大学協会に「全国へき地・小規模校教育部門」を新設し、相互交流・相互支援を目的とする全国的なネットワーク基盤を構築しました。今後も教員養成の高度化に力を注いでいきます。

北海道教育大学の10年間の歩み
(センター長報告)

愛知教育大学(A)
野田 敦敬

私は、プロジェクトが始まった当初、規模の大きな教員養成系大学4つが果たして協働して何ができるのか半信半疑の状態で見守る立場でした。平成26年に、特命の副学長(カリキュラム改革担当)に就任して、主に東京学芸大学が中心となった教育実習の指導者向けのDVD作成と評価にかかわることになり、他大学の取組の様子も分かり本学の教育実習の充実を図ることができました。
本学主催のプロジェクトとしては、「教員の魅力」「理科離れ克服の科学・ものづくり教育の推進」「特別支援教育の多面的・総合的支援」「外国人児童生徒学習支援」の4つがありますが、4大学の協働で充実した成果が上がったと認識しています。長年に渡る関係者の取組に感謝いたします。
今後第4期中期目標期間において、教員養成系大学は、運営費交付金の配分において、厳しい状況となることが予測されますが、このプロジェクトの成果を広めるとともに、協働した経験を活かして、それぞれの特色を評価してもらえるよう対処して参りたいと思います。

東京学芸大学(T)
國分 充

HATOプロジェクトは、2012年度末に、わが国の教員養成の高度化を進める事業として、わが国を代表する教員養成単科4大学が連携して行うはじめての取り組みとしてスタートしました。最初の6年間は、補助金事業として3部門16プロジェクトに、その後は、プロジェクトを5つに整理して取り組んできました。
この10年間、教員養成系大学・学部をめぐる情勢は大きく変化しました。なにより、大学院教育が教職大学院化し、教員養成の高度化が一層進みました。「チーム学校」も、教員の働き方改革の中で、その実質化が強く求められています。さらに、昨年よりのコロナ禍は、GIGAスクール構想を強力に後押しし、教育のDX化は待ったなしの状況となっています。
こうした情勢の中、HATOプロジェクトをあらためて振り返ってみますと、その取り組みは、現在の課題を広くカバーするようなものになっていたと思います。教員養成のフラッグシップ大学構想が進められ、教員養成に対する期待が高まっている中、HATOプロジェクトの成果が、わが国の教員養成の中で活かされていくことを願ってやみません。

大阪教育大学(O)
栗林 澄夫

年度替わり直前の2013年に、単科の規模の大きな教員養成大学間で、HATOと略称されている大学間連携プロジェクトが立ち上がりました。その意図するところは、教員養成の質保証と高度化のために、各大学がテーマとする特徴的なこれからの課題を持ち寄り、探求の成果をお互いの共同利用に供して、日本全体の教員養成に貢献しようとするものであったと思います。地域ごとに特色ある教員の育成を行い、地域が求める教育人材を養成し、貢献するという視点も必要ではありますが、グローバル化が急速に進展しつつある21世紀においては、国全体で標準となる基礎的なモデルを作成し、その基礎の習得の上に独自の特色を積み重ねることがより重要である、との意識が、参加した4大学に共通していたと考えています。大阪教育大学は、池小事件から生まれた安全・防災教育プログラム開発、国際感覚に優れた教員養成プロジェクトで参加し、今でも貢献できる内容を生んだと考えており、今後に向けて現在取り組み中の大学等連携推進法人の構想にも役立っていると考えているところです。

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